腐ったこの世界で



あたしには何がなんだかさっぱり分からなかった。ただ、変態男は顔を真っ赤にして男に向かって怒鳴ってる。怒っているせいか、何言ってるのかは分からないけど。
人買いは男の完璧な笑顔に戸惑いながらも、困ったような笑みを浮かべながら謝罪した。

「すみません。既にそちらは買い手がつきまして……」
「幾らだ?」
「は?」
「その男はいくらで買うと言ったんだ?」

男の言葉に人買いは戸惑いながらも金額を告げる。あたしはその金額に目眩がした。この人買い、相当吹っ掛けたな。
だけど男は怯んだ様子もなく「ではその二倍出そう」と言い出した。さすがの人買いもこれには驚いたらしく、目を見開いて固まっている。こうなると面白くないのは変態男だ。

「おい! なに勝手なこと言ってやがる!」

胸ぐらを掴む勢いで怒鳴る変態男の様子に、あたしもようやく我に返った。「ちょっと! 自分がなに言ってるのか分かってんの!?」男に向かって怒鳴ったら、男は驚いたような顔であたしを見た。

「分かってるつもりだが?」
「だったら……!」
「このままだと君はあの男に買われてしまうよ?」

その一言にあたしは怯む。もちろん、あんな奴に買われたくはない。黙ったあたしに、男は満足そうに笑った。「サー、あんた頭おかしいよ…」半分本気で呟いたあたしに男は苦笑する。

「それは酷いな。それに『サー』は正しくない。僕はロード・ルーシアス。位階は伯爵だ」

淡々と告げられた事実に、あたしは目を見開いた。



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