腐ったこの世界で


我がルーシアス家は代々続く由緒正しい伯爵家だ。どちらかといえば武よりも文に秀でた者が多かったらしい。
だからなのか、王宮でも重要職に就いていたりしていて、何不自由ない生活を送っていた。それが変化したのは父の代から。
王家とは何の繋がりもない父の元に、王女が降嫁されることになったのだ。これによりルーシアス家は王族に連なる一族という位置付けになってしまった。
今の王は母の兄に当たる。つまり王太子は俺の母方の従兄。ジェラルドの父である公爵も、母の兄に当たるから俺とジェラルドは同い年の従兄弟だ。

「…寄るな。年寄りたちが邪推する」
「言わせとけ。言われて困ることなんかないだろ」

睨むようにしてこっちを見る古株の貴族たちを見つけて俺はジェラルドの肩を押すが、ジェラルドは面白がって離れようとはしない。
俺たちには王家に繋がる血筋ということで王位継承権がある。もちろんずっと低いが。だがジェラルドは王家の男子に何かがあった場合、王位継承権の筆頭に名前がでることになる。

「また嫌味を言われるだろ」

俺は前回参加した舞踏会を思い出してため息をついた。古株の貴族たちにとって、俺とジェラルドが仲良くしてるのは面白くないらしい。
まったく。簒奪の意志も王家に対する反意もないというのに。ジェラルドは辟易した様子の俺を見て、愉快そうに笑った。

「だったらなおさら殿下の元に行くべきだな。臣下として仕える意志があるのを見せるべきだぞ」

言われなくても。頼まれたって王になどなりたくない。俺がルーシアス伯爵を継いだのだって不測の事態だったのだから。
俺は手に持ったシャンパングラスを一気に煽った。こんなことなら屋敷にいれば良かった。
脳裏に鮮やかな栗色の髪を持った少女がよぎる。彼女のそばにいれば良かった。


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