ブラッディ アリス
Ⅸ
淡い月明かりが、廊下を照らす。
兎の瞳が、赤い筋を描きながらゆらりと動く。
「ん……あ…っ」
侯爵の寝室から漏れる、娘キオネの声。
「お…お父様…私……聞いて欲しいことがありますの…」
「…なんだ?」
侯爵はキオネの細い腰を舌でなぞりながら聞き返す。
「私…カイル王子が……」
「やはり王子に惚れたか」
侯爵は動きを止め、体を起こしてキオネを見下ろした。
「…あんなに素敵な方…いませんわ…」
キオネは月明かりに照らされた自分の瞳を潤ます。
「…だが…」
「お父様だって、王家との繋がりを持ちたかったのでしょう?…私が王子の愛人になれば…」
「だが…アリスがいる…」
侯爵は眉間にしわをよせてキオネから目を逸らす。
そんな侯爵の言動に、キオネは嬉しそうな顔をして起き上がった。
「アリスは私が始末いたしますわ。あの方に頼めば…きっとうまくいきます。それに王子も私に気があるみたいですのよ。先ほどアリスの前で、私を抱きしめてくださいましたの…」
キオネはそう言いながら、侯爵にそっと触れる。
自分の体をつたう娘の指に息を荒くしながら、侯爵はゆっくりとキオネの体をベッドに寝かせた。