ショート・ミステリーズ!短編集その3
智春様をお見かけしたのは、秋風が身を包む十月のことでございました。

おぼろ月の美しい晩、私は、高下駄の音を響かせながら、色町を歩いておりました。

私が下働きをしております、「花木屋」という遊女屋は、この色町で一番の所帯を構えております。

夜の帳の広がる時間、それはもう、猫の手も借りたいほどの忙しさでございます。

私は、茶葉を買い求めて、町外れの「三輪茶屋」へと歩いていたのです。

先の大戦から続く、戦後景気と申すのでしょうか、人々は勝戦ムウドを満喫しておりまして、夜町の光が閉ざされることはないのでございましょう。

藤色の暖簾の下で、白粉を下手に塗った女郎が、ポロムポロムと三味の音を奏でております。

黒染めの着物に袖を通した人々が、酔いどれた戯れ唄を歌いながら、表通りを闊歩しておりました。
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