{霧の中の恋人}

「離婚するって言いだした日の前の晩まで、2人で笑いあって晩酌してたんだ。

ケンカだって滅多にしたことなかった。
子供の僕から見ても、お似合いの夫婦だった」


何回か涼子さんの旦那さんに会ったことがあったけど、私の目からみてもお似合いの2人だった。

お互いに、それぞれ好きなことをして、それをお互い認め合って、信頼し合ってるような2人だった。

だから、涼子さんが離婚すると聞いたとき、私は信じられなかった。


きっと俊介くんもそうだったのだろう。


「どっちかに他に好きな人ができた訳でもない。
かと言って、お互い嫌いになった訳でもない。
それでも2人は離婚という道を選んだ。

だから僕は、その2人の決断に納得が出来なかった」


理由も分からないのに、両親が離婚すると言い出したら、俊介くんがそう思うのも無理ないと思う。


「母さんに離婚の理由を聞いたら、

『あの人を嫌いになった訳じゃないの。でもそうした方がお互いの為なのよ。子供のアンタには悪いけどね』って言ってた。

理由は僕にもよく分からなかったけど、2人があまりにあっさりとしていて、笑ってるからそれでもいいか…って思うようになったんだ」


涼子さんらしいな。

きっとあの2人にしか分からない何かがあったのだろう。



……でも結局、俊介くんは何が言いたかったの?


「俊介くん?さっきの話と繋がってなくない?」


私の言葉に、俊介くんは口をつり上げ、すこし笑う。


「人の心は複雑ってことだよ。
思い込んでいると、真実が見えなくなるよ」



それから俊介くんは、大きなアクビをした。








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