KISS OF LIFE
「あ、いたいた」

その声の方向を見ると、あたしは声を失った。

この前見た、黒髪ストレートの女の人 。

南野課長と一緒にいた、例の彼女だ。

「もう、遅いからきちゃった」

困ったように言いながら、南野課長の隣に立った。

「ああ、すまん」

南野課長が言った。

「あれ?」

女の人があたしを見た。

彼女と目があった瞬間、あたしの躰がこわばった。

「この人って…」

あたしはうつむいた。

「お兄ちゃんの彼女?」

えっ、お兄ちゃん?

あたしは顔をあげた。

顔をあげたあたしは、多分相当なマヌケ顔だっただろう。

「お、お兄ちゃん…?」

開いた口がふさがらないとは、まさにこう言うことを言うんだと思った。

「結構かわいい人じゃない、お兄ちゃんが一目ぼれするのもわかるかも」

ニヤニヤと笑いながら、南野課長を肘でつつく女の人――じゃない、妹さんが言った。
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