おろし

†エレベーターの中で†

ブーンとエレベーターの灯りがついた。
私は赤神から受け取った人形を胸に抱いた。
いつも馴れ親しんだエレベーターだが、少し今夜は、怖い気がする・・・

ふいに、何かが香りはじめた・・・エレベーター内に・・・

『この香りは・・花・・ラベンダーの香り・・・』

エレベーターという密室の中で、ラベンダーの香りが、フッとこもり始めた・・・
急いで、わたしは自分の階のボタンを押し、動き出すのを待った。

壁に持たれながら少し眼を閉じた。

『あの女は、私の部屋に、まだ存在(いる)のか?』

そう思うと少し背筋が寒くなった。
エレベーターの、あの当たり前の感覚が、今夜は、ひどく神経に重く圧し掛かって来る。
そのような感覚の中、微かに聞こえる音がある・・・わたしの耳、脳に届く音・・・

ザザ・・ザ・・・
ザザ・・ザ・・・

ザザン・・・
ザザザザザザザ・・・

---嗚呼、これは今年の夏に、聞いた小波の音だ。
そう、夏に、あの琵琶湖の浜辺を歩いた時に聞いた、あの波の音だ・・・

ザザザザザザザ・・・

嗚呼、懐かしいなあ・・・

ブン。

目の前に両手をひろげた髪の長い女が、わたしの目に飛び込む。

そして融合・・・

そう、融合するかのように、わたしの肩に手をまわし・・・そして、彼女は消えていった・・・

「同じだね・・・」

そう耳元に風(声)が、吹くと同時に・・・
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