おろし
---月は雲に隠れている。
影もない漆黒の夜の中、赤神 丞 がいた。
わたしの目の前に・・・この男は・・この男の事は・今は・・言えない・・・

赤神が話しかけてきた。地を揺るがす程の低い声で・・・心が痺れる・・・

「人形が泣いている・・・」
そう、一言・・・そして・・・わたしを見た・・・

赤神は女装をする美男子とだけ、今は記しておく・・・


「痢煙さん。ちょうどあなたのマンションに向かってたところだ。」


わたしは、驚きもせず彼の両目を見た・・・

彼は赤眼をしている・・・片方の目は義眼と聞いている。

---昔、鬼にくれてやったそうだ・・・ということも記しておく・・・


「夜に、急に人形たちが泣き出して、あなたに危険が降りかかることを語ってくれた・・・」


わたしは、あの女を思い出した・・・
琵琶湖のほとりに立っていたあの女を・・・


見初められたのか・・・
なぜ、そのような映像が浮かび上がったのかはわからない・・・

「痢煙さん・・・これ・・を・・・」

袋から、髪の毛が燃えたように、チヂレた毛をした人形が、三体も出てきた。

「一つは、ここに来ようって思った瞬間・・・燃えた・・・」

「次に、足止めを受けた時に・・」

「そして、今ここで・・・燃えた・・・そう、あの部屋に入ろうとしてね。」

赤神は、痢煙の住むマンションを見上げた・・・

黒い黒い煙のようなものが、わたしの部屋から出ている・・・

そして、青白い人影、そこに存在・・・する・・・

「最後の人形だ・・・きっと、あなたの代わりになってくれる・・・」

赤神は、そう言うと、黒いマントを翻し、漆黒の夜へと帰っていった。


赤神は不思議な風を纏った男・・・

痢煙、わたしは彼を見送り、マンションの入り口へ向った。
そして、エレベーター内に入り、『閉る』のボタンを押した・・・

あの陰に向かう・・・のに、一人なの?・・・そう、痢煙は心で反復するのであった。
< 9 / 26 >

この作品をシェア

pagetop