それでも、すき。
あの日。
金木犀の香る音楽室で
想いが通じ合った日から、あたしと香椎くんの関係は変わった。
カラダだけの関係じゃなく。
ただのクラスメイトでもなく。
―――恋人へ。
未だに、信じられない。
夢かと思う事もある。
あたしの想いが報われることなんて、考えた事もなかったから。
けど―――。
「ゆーの、遅刻~。」
「ご、ごめん、ねっ!」
「ははっ、ゆの息切れすぎ。」
…だって走って来たんだもんっ!
そう言いたかったけど
日頃の運動不足が祟り、なかなか呼吸が落ち着かなくて。
「おいで。」
とピアノの前で、余裕の笑顔を浮かべる香椎くんに呼ばれ。
「………、」
それに素直に従ってしまう自分が、何だか悔しい。
…でも、嬉しいのが本音。
そっと赤い絨毯を歩き、近付く距離が走ったばかりの心臓をまた速めてゆく。