独り言2<その後のある日>

一歩前進?!

「変化」と言っても決して大げさなものではない。
職場も変わってはいないし、今も派遣社員である。収入も変わらない。いや、手取りは少し減り出している状況だ。彼氏も見つかりそうにない。

ただ近頃、真奈美は読書に励んでいるのだった。

もちろん、以前からバッグには大抵文庫本をしのばせ、通勤の車内で読んではいた。

実は、真奈美はアレルギーを持っていて古本にくっついている虫だかホコリに敏感でくしゃみが止まらなくなるので苦手だった。そのせいで、一度きりしか読まないのでもったいないとはわかっていても本は必ず買って読んでいたのである。
数百円とはいえ、月に数冊は買っていたので余計な出費だ。おまけにいくら文庫本とはいえ狭い真奈美の部屋の隅に積み上げられてお荷物になっていた。
そのことはタダでさえ冴えない部屋にうんざりしていた真奈美をますます憂鬱にさせていた。

そこで6月のとある週末、本格的な夏がくる前に部屋をすっきりさせようと、全て処分することにした。思い切って部屋中の売れそうな本をかき集めて近くの古本屋さんに売りに行ったのである。くしゃみにはいい加減参ったし、持ち込んだ数十冊の本も予想通り大した金額にはならなかったが、いい気分転換になった。

そして、何を思いついたのか帰りに偶然通りかかった図書館に立ち寄った。
図書館など随分ご無沙汰していた。学校を卒業して以来、近寄ったこともなかったように思う。学生の頃、特に試験が近づいた時や夏休みには図書館で過ごしていた記憶はあるが、基本的に図書館とは縁がない生活をしてきた。

それが、久しぶりに‥いや、まして近所の図書館など初めてだ。社会人になってから、自宅近くの図書館に足を運んだことなどなかった。

決して大きくはないが、落ち着いた綺麗な建物で、中に入って驚いた。新しい本はもちろん、雑誌もたくさんあるし、映画のDVDや音楽CDなども今では図書館で借りることができるらしい。本を広げても恐れていたようなくしゃみには大して襲われなかった。

それ以来、真奈美は週末に図書館を利用して通勤、あるいは帰宅してからも本を読むようになった。

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