白いかけら
序章
 一面の銀世界。それは、これのことを言うのだろう。
 しかしこれは、刺々しい目を射す眩しい銀ではなく、天使のように優しくぬくもりのある白だ。
 手のひらをかざすと、空から降りそそぐ白はひんやりという名残を残してすぐに溶けた。
 地を踏むと、サクッと軽い音が鳴り跡を残す。
 跡はただまっすぐ、ぽっつり立っている小屋に伸びていた。
 キイッと木の戸が音を立てながら、開く。
 「おかえり」
そんな彼女の声が、聞こえる気がした。しかしそれが幻聴であると、家の中の寒さが思い知らせる。
 数ヶ月前の今、全てが始まった。
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