白いかけら
別れ
 次の日、俺は何かが割れる音で目を覚ました。
 慌てて部屋を出て居間に行く。すると、割れた皿とこぼれた食事、そして倒れている彼女があった。
 テーブルの近くに倒れている彼女を、抱き起こすと彼女の目はどこも見ていなかった。光りもなかった。
 眉を寄せながら、彼女は手を伸ばして何もない空間を触っていた。
「どこ?」
彼女は、俺の名前を呼ぶ。
 宙をさまよっている彼女の手を握る。すると、彼女はほっとしたような顔をした。
「どうした」
彼女は、泣きそうな顔になった。いや、泣き出していた。顔をくしゃくしゃに歪めて、俺の腕の中で泣き出した。
「見えなくなちゃった。目が、見え無くなっちゃったよ」
彼女は溢れる涙を幾度となくぬぐうが、目が乾くことはなかった。
 俺はただ、それを見つめることしかできなかった。
 いや、見ているようで頭には映像が入ってはいなかった。
 頭の中は、彼女の死で溢れていた。
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