白いかけら
 「起きて~!」
まだ日が昇ったばっかりの時、俺は彼女にたたき起こされた。
 朝の弱い俺は、布団から出るのを惜しみながらベッドから出る。
 寝起きのボーとする頭で、鞄を開ける。中から、しわだらけの服を引っ張り出す。
 と、俺は後ろを振り返る。そこには、案の定彼女がいた。まるで、当たり前のように。
「今から、着替えるんだけど」
その言葉で、彼女は思い出したようにハッとしたように顔を赤らめ、部屋を出て行った。
 着替えが終わった頃には、ぼんやりしていた俺の頭は、多少冴えていた。
 彼女はどうやら、俺が来るのを待っていたらしい。
 ドアの隣の壁に寄りかかり、俺が出てくると嬉しそうに笑い、手を引いてリビングへ走り出した。
 はて、今日は何の日だったか?
 俺は彼女のはしゃぎように、そんなことを考えた。
 彼女はリビングにつくと、俺をピアノの前まで連れて行った。
 イスに座り、白い鍵盤に彼女は細い指を置いた。
 俺はどうしたらいいのかわからないまま、彼女の後ろで頭をかき突っ立っていた。
「さぁ、歌の練習よ」
「え?」
意味がわからず間抜けな顔をしている俺をよそに、彼女は鍵盤を押した。
 水を落とすようなピアノの音が、彼女の歌を奏でる。
 しばらく、俺はどうしていいのかわからず、頭にはてなマークをを出すばかりだった。
 俺を見上げる彼女の目は、歌いなさいと言っている。
 俺はそれを察し、ピアノの音に合わせ歌い出す。突然で、まだ少ししか聞いたことのない歌だったから、声は震え音程は外れっぱなしだった。
 昨日は歌えたのに。
 気持ちばかりが焦る。
 しばらくそうしていると、彼女も一緒に歌い出した。すると、不思議なことに彼女と同じように歌えた。
 それからずっと俺たちは、日が傾くまで笑いながら歌った。
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