白いかけら
 彼女は、壁をに手をついて玄関まで行った。そして、戸を開けた。
 冷たい風が俺の頬を撫で、彼女のスカートと金の長い髪を揺らした。
 外から吹き込んでくる風が、まるで奈落から吹いてくる風のような錯覚が俺を襲った。
「さぁ、早く出て行って」
彼女の声は、今まで聞いたことのないくらい鋭かった。しかしその反面、震えていた。
 俺は言われるがまま、部屋に入り荷物をまとめた。
 そして出る前に、机の引き出しを開けノートを取り出そうとした。
 しかしそこにはノート一冊もなく、代わりに俺が彼女に貸した青いマフラーがあった。
俺はそれを首に無造作に巻き、部屋を出た。
 居間に戻ると、彼女はそこにはいなかった。
 部屋に行ったのだろうかと彼女の部屋に足を向けたが、やめた。
 俺は、静かにそしてすべての思いを断ち切るように、この家を出た。
 来たときのように白い世界を、走った。
 しかし、来たときとは決定的な違いがあった。
 今の俺には、心にわだかまりがあった。
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