白いかけら
 俺は数ヶ月あの家戻らず、前のように目的のない旅を続けた。
 いや、目的はある。
 彼女の病気を、治す方法を探していた。
 しかし、手がかりすら見つかっていなかった。
 たまに、イヤになった。あの家に帰りたくなった。彼女の声が、歌が聞きたくなった。彼女の笑顔が見たかった。温もりを感じたかった。
 でも、戻らなかった。戻れなかった。
 俺は、首に巻いた青いマフラーを握る。
 いくら走っても、あの世界には、あの歌にはたどり着けなかった。
 俺は夢を見た。
 懐かしいあの声、あの歌が暗闇の中に響いていた。
 俺は必死でそれを頼りに、走った。
 もしかしたら、あの白い世界にいけるかもしれない。
 もしかしたら、あの家に行けるかもしれない。
 もしかしたら、彼女に会えるかもしれない。
 俺の心は、期待と喜びで溢れていた。
 暗闇の中に、ぽっつりと浮かぶ白い世界に俺の求めていた者がいた。
「ウィン!」
愛おしい、彼女の名を初めて呼んだ。
 すると彼女は、驚いたように俺の方を振り返り、嬉しそうに目を細めた。
「ラド」
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