白いかけら
 そうしているうちに、俺は眠っていた。
 次に目を開けた時は、黒い世界にいた。
 俺は、またかと思いながら歩いていた。
 しかし、いつまで経っても前のように彼女の歌は聞こえてこなかった。
「そうだよな。俺は、彼女に会う資格なんてない。」
俺は、足を止めそうになった。情けなく俯き、拳を握った。
 夢の中でさえ、俺は泣きそうになった。
 そんなとき、世界が白く明るくなり、白くきれいなかけらが舞い降りてきた。
 俺は手をかざし、空を見上げる。
 祝福の空だ。
 彼女の生まれ、死んだときの天気。
 ふと、隣を何かが通りすぎる。
 白い布。細い腕。柔らかい金の髪。前だけを見るきれいな金の瞳。
 彼女だった。
 しかしその目には、俺が映っていなかった。
 前だけ見て、彼女は走っていた。まるで、何かを振り切るように。
 彼女は、どんどん前へと走っていく。
 俺は、それをまた見ていた。
 彼女は、ふとと足を止めて振り返った。
 決して俺を見ているわけではなく、ただ悲しそうな顔をして何かを思っていた。
 しばらくそうした後、首を振りまた走り出した。
「さよなら。ラド」
走り出す前、彼女がそう言ったのを俺は聞いた。
 俺ははっとして、下唇を噛んだ。
 勢い込んで足を進める。
 俺は、彼女を止めなくてはいけない!彼女の手をとらなくては!
「ウィン!」
手を伸ばし、彼女の細い手を握った。
 温かい。
 思わず俺は、彼女を引き寄せ抱きしめようとした。
 しかし彼女の体は、俺の腕に収まる前にはじける泡のようにきれいな光になった。
「ラド」
彼女ははっきりと俺を見ていた。そして、一粒の涙を流しほほえんだ。
 俺の腕は、また空を抱いていた。ほんの小さな温もりだけを残して。
 手のひらに、彼女が流した涙が光っていた。
< 23 / 37 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop