白いかけら
ただいま
 パサッ
 乾いた物が落ちる音がして、俺は目を覚ました。
 どうやら、俺が握っていた彼女の日記が落ちたようだ。
 俺はあの夢の余韻に浸っていたくて、手のひらを見つめ、あの時見せた彼女の温かい涙と笑顔を思い出した。
 その手に、彼女の手と涙の温もりを感じられた気がした。
 ぎゅっとそれを握り、額にこすりつけた。
 だめだった。手をつかむのが、俺は遅すぎた。
 もう彼女は、戻ってこない。
 俺の涙はかれること知らないのか、また涙が溢れてきた。
 彼女に会ってから、俺は知らない間に感情豊かになっていた。感情表現が出来るようになっているような気がした。
 きぃ…。
 古い木の戸が開く音がした。
 俺は、彼女の歌声がすぐそこで聞こえたような気がした。
 ペタペタッ
 木の床を、裸足で歩く音がした。
 俺は、彼女の息づかいがすぐ側で聞こえるような気がした。
 ぎっ
 立て付けの悪い床が、重さにきしむの音が聞こえた。
 彼女の温もりが感じられた。
「ラド」
 俺が顔をあげると、彼女が俺をそっと抱きしめている姿が見えた。
 俺は目を見開いて、じっくりと彼女を見つめる。
 彼女は、変わらない笑顔で俺を見つめ返す。
 俺は、ここにいる彼女が本物だと思った。
 疑うことをしなかった。
「ウィン。お帰り」
俺は、彼女をぎゅっと抱きしめた。
 彼女が驚き、息をのむ音が聞こえた。
 彼女もぎゅっと俺を、抱きしめ返してくれた。
「ただいま」
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