B L A S T
江原先生の目に涙が浮かんでいるのが、バックミラー越しに見えた。
楓はなんと慰めの言葉をかけていいのか分からず、それから自宅に着くまで車内は沈黙が続いた。
「今日は付き合わせて悪かったわ」
ハンドブレーキをかけた後、江原先生は振り返って言った。
いえ、と楓は首を振る。
「こちらこそ家まで送ってくれてありがとうございます」
「いいのよ。また明日学校でね」
すると江原先生は助手席に目をやった。
「ほら由希。黙ってないであなたも何か言ったらどう?」
由希はダッシュボードの上にあったティーン雑誌を読みふけっていた。
「どういうつもりで一樹の彼女だなんて嘘ついたのか知らないけど、ちゃんと謝りなさい」
しかし彼女は耳を傾けようとせず無言を通している。
そのかたくなな様子に、江原先生は太いため息を吐いた。
「ごめんなさいね。私が代わりに謝るわ」
「いえ、先生が謝ることじゃないです」
「まさかあなたの好きな人が一樹だったなんて。こんな偶然あるのかしら」
ふふ、と江原先生は笑った。
「私が言えることじゃないけれど、あなたが息子のこと好きになってくれて先生は嬉しいわ」
ふと、江原先生の笑顔がイツキと重なって見えた。
顔形は違うけれど、どこか似ている優しい雰囲気はやっぱり親子なのだと思わせる。