B L A S T

江原先生の目に涙が浮かんでいるのが、バックミラー越しに見えた。

楓はなんと慰めの言葉をかけていいのか分からず、それから自宅に着くまで車内は沈黙が続いた。


「今日は付き合わせて悪かったわ」


ハンドブレーキをかけた後、江原先生は振り返って言った。

いえ、と楓は首を振る。


「こちらこそ家まで送ってくれてありがとうございます」

「いいのよ。また明日学校でね」


すると江原先生は助手席に目をやった。


「ほら由希。黙ってないであなたも何か言ったらどう?」


由希はダッシュボードの上にあったティーン雑誌を読みふけっていた。


「どういうつもりで一樹の彼女だなんて嘘ついたのか知らないけど、ちゃんと謝りなさい」


しかし彼女は耳を傾けようとせず無言を通している。

そのかたくなな様子に、江原先生は太いため息を吐いた。


「ごめんなさいね。私が代わりに謝るわ」

「いえ、先生が謝ることじゃないです」

「まさかあなたの好きな人が一樹だったなんて。こんな偶然あるのかしら」


ふふ、と江原先生は笑った。


「私が言えることじゃないけれど、あなたが息子のこと好きになってくれて先生は嬉しいわ」


ふと、江原先生の笑顔がイツキと重なって見えた。

顔形は違うけれど、どこか似ている優しい雰囲気はやっぱり親子なのだと思わせる。
< 285 / 398 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop