B L A S T

イツキの顔を見るのは久しぶりだ。

髪色が金から黒に戻っていた。

それにしてもセイジとの喧嘩でできた傷が所々で目立っていて痛々しい。

ガヤだってまだ左肩の傷は癒えてないはずなのに。

二人が向かい合うと、それまで騒がしかった体育館はしんと静まり返った。


「これでおあいこだな」


先に口を開いたのはガヤだ。

ああ、とイツキは頷く。


「おれは肩。お前は頭。どっちが勝っても負けても恨みっこなしだ。手加減はしねえぞ」

「それはこっちの台詞だ」


間に立っていたテツにイツキが目配せをすると、テツはポケットから煙草とライターを取り出した。

煙草の灰が落ちたら始まりの合図だ。


「ああ、ちょっと待て」


火を点けようとしたテツをガヤが制止した。


「せっかくだから賭けしねえか」


メンバーの間でどよめきが起こる。


「賭け?」


眉をしかめるイツキに、ガヤは大きく頷いた。


「どっちがBLASTの総長にふさわしいか勝敗で決めんだよ」

「……」

「ちょうどお前とはそのことでケリをつけてえと思ってたんだ。お前が勝ったら今まで通り、おれが勝ったら総長の座はおれがもらう。例え皆がなんと言おうとな」


沈黙が流れる。

イツキは何かを考えている様子だった。

それから彼が口を開いたのは少しした後だ。


「彬。お前、なにを企んでる」


ガヤは大きな八重歯を見せて答えた。


「別に何も企んでねえよ」

「いいから言えよ」

「……」

「彬」


ふう、とガヤは観念したようにため息を吐く。


「いつだったけ。お前言ったよな。リーダーの命令は絶対だって」

「…ああ」

「もしおれが勝って総長になったら」


ガヤは真っ直ぐイツキを見据えた。


「手術を受けろ。それがお前への命令だ」


ここにいる全員の視線がイツキに集中する。

イツキは黙ってガヤを見つめていた。

蝉の声がいつまでも鳴き止まない。

やがて、イツキが小さく頷いた。


「…分かった」
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