蒼翼記
リンはずっと城で育ったため、料理を作った経験がない。
そのため今ジャムを熱する為に鍋の下に敷かれた高温を発生させる石ファイアも、ファイアのその特性を活かして作られた石窯も、料理に使うごく日常的なものが目新しい。


彼女を見、リンは愛しそうに微笑む。


「じゃあ、少しずつ教えて?」



ライアは華のように笑い一つ頷いた。




窯で焼いたパンに出来立てのジャムを塗って、サンドイッチを作る。
出来上がるとそれを大きくて丈夫な葉で包み、蔓を巻いた。



支度が出来ると、二人は外に出た。
湿った土の匂いの残る外気がひんやりと心地良い。


「杞憂に越した事はないが、嫌な胸騒ぎがする。くれぐれも人目につかぬよう」

「わかった。
ありがとうクロ」


ライアをお姫様のように抱き抱えると、腰から生える身の丈程はある翼を広げる。



「せいぜい楽しんでおいで。
お土産なんかあると嬉しいねェ」

「お土産ねっ?わかったわ!」



あからさまな冗談を真に受けたライアにアキは面食らったように驚いてライアを凝視し、破顔するように苦笑した。











目下でこちらを見上げるアキとクロスメイアスがどんどん小さくなる。



「初めてメイの背中に乗った時みたいだわ!」


ライアははしゃいで辺りを眺める。

相変わらずの樹木の雲海。

遠目にぽっかりとあいた王聖地であろう場所がリンの見えるぎりぎりのところに見えた。
< 157 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop