粉雪2-sleeping beauty-
『…マツは凄いね…。』


千里は少しだけ笑い、言葉を続けた。


『…マツには、人を安心させる不思議な力があるの。』


「―――ッ!」



そんなのねぇよ…。


俺だって本当は、イッパイイッパイなんだぜ?


だって今、すっげぇ泣きそうなんだもん…。



『…ありがとね、マツ…。』


「―――ッ!」


囁くように言われると、

胸を締め付けていたものが、自然となくなっていくような感覚に襲われる。


それと同時に、別の感情が胸を締め付ける。



「…気にすんなよ…。」



抱き締めてしまいたかった…。


壊してしまいたかった…。



こんなにも愛しているのに…


こんなにも近くに居るのに…


俺には、手を伸ばす勇気さえないんだ…。



いつの間に俺は、こんなにも弱くなってしまったのだろう。


いつの間にお前は、ガラス細工のように脆くなってしまったのだろう。



何で、俺のものにならないんだろう…。



いつも脳裏に浮かぶのは、初めて会った時に料亭で見た顔。


隼人さんの隣で楽しそうに笑う、お前の顔なんだ…。



死んだくせに…


居なくなってしまったくせに…



俺を…


千里を縛るあの人が許せない…。

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