粉雪2-sleeping beauty-
―ピッ…

「…何か用?」


『…久しぶりだね、マツ…。』


もぉ忘れてしまいそうな優しい声で、千里は俺に問い掛けた。


その瞬間、グラつきそうになる。



「…そうだな。」



俺はちゃんと、話せているんだろうか?


忘れようとしていたはずなのに、何で俺の胸を締め付けるんだろう。



『…何やってるの?』


「…書類作ったりとかな。
お前は…?」



自分自身、何でこんな会話をしているのかわからない。


突き放すことも、優しい言葉をかけることも出来ない。



『今ね、海に来てるの。』


「…一人で?」


電話口の後ろから、微かに波の音が聞こえる気がする。


少しだけ雑音が混じり、そのおかげで、俺の心にブレーキがかかる。



『…今日の波はね、マツみたいだと思ったんだ…。
だから、マツに電話したの…。』


「…意味わかんねぇから。」


ため息をつき、ソファーに腰を下ろして煙草を咥えた。



『…そうだね。』


クスッと笑った声が、電話口から漏れてきた。


その所為で、掻き乱されそうになる。



「そんなこと言う為に、わざわざ掛けてきたのかよ?」


振り払うように、言葉を投げかけた。


吸い込んで吐き出した煙が、行き場所を探すように彷徨う。



< 183 / 372 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop