粉雪2-sleeping beauty-
『…俺がもし…千里奪うことが出来ても…お前は何も言わないのか…?』


「…言わねぇよ。
それに、言える立場でもねぇから…。」


瞬間、押し殺すように唇を噛み締めた嵐は、俺の目を真剣に見据えた。



『嘘だよ、バーカ!
だからお前、俺の“友達”辞めんなよ?
悩みなら、いつだって聞いてやるから…!』


その言葉にフッと笑い、立ち上がって店を出た。


その後嵐が何か言ってたのかは、わからない。


騒音の様な音は、そんな全てのことを掻き消した。




心は軽くなったはずなのに、ただ悲しくなった。


ずっと、分かりきっていたことなのに…。


いつかはこうしなきゃいけなかったんだ…。



アイツの笑顔も、

泣いた顔も、

スカルプチャーの香りだって、今もまだ、簡単に思い出せる。



クリスマスに窓ガラスにツリーの絵を描いた事も、

誕生日に花に囲まれて笑ってたことも、

海行ってはしゃいだことも…


全部、鮮やかに思い出せるんだ…。



首に掛けられたドルガバのキリストロザリオは、再び冷えた体よりも冷たかった。


こんなものが残っても、何の意味もない。



もぉアイツが俺の部屋に来ることも、

飯を作って叩き起こすことも、

請求書の書き方に不満そうに口を尖らせることもないんだ。


言葉にしてみれば、こんなに簡単なのに。


なのに俺は、振り払うことさえ出来ない。




…なぁ、千里…


俺達はもぉ、再び繋がることはないんだと思ってた。


あの瞬間、俺の手をとってくれてありがとう。


嘘ついてくれて、ありがとう。


わかってても、嬉しかった。


最後にくれた“プレゼント”と、あの“約束”。


絶対忘れねぇから―――…




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