粉雪2-sleeping beauty-
千里が入院している間、忙しい合間を縫っては病院に足しげく通った。


病室の冷蔵庫はお菓子で埋め尽くされていたが、

俺は癖のように毎回何かを差し入れた。


少しずつだけど顔色が良くなっていく千里を見ると、自然と元気になれる自分が居る。



時には昼間から酒を勧められたり、納得してくれない人には頭も下げた。


従業員には何も言わず、

いつものように日報を受け取るために夕方には事務所にも行った。


忙しすぎて、寝不足続きで。


だけどどんなに遅くなっても夜には病院に戻り、千里が寝るまでの間、

昔話に花を咲かせ続けた。




―ガチャ…

「…うっす。」


『ビックリしたぁ~!
ノックしてって言ったじゃん!!』


ポッキーの箱を開けていたのであろう千里は、目を丸くして口を尖らせた。


そんな光景に少しだけ笑い、指定席のようになった丸椅子に腰を下ろす。



「…驚かせようと思ってさ。
つーか、そんなもん食ってるのは良いけど、飯食ったんだろうなぁ?」


『…ねぇ、マツ…。
病院抜け出して、どっか食べに行こうよ!!
ここのご飯、美味しくないんだもん…。』


上目遣いで駄々をこねる千里は、まるで子供みたいだと思った。


だけど時折、何かを考えるように窓の外を見つめる。


きっと、口には出さないけど、俺のやっていることが不安で堪らないのだろう。


だからこそ、千里は努めて明るく振舞っているに違いない。


そんなことを考えると少しだけ胸が締め付けられ、振り払うように笑顔を向ける。


“退院してからのお楽しみ”と笑い掛ける俺に、

千里はいつも、諦めたように何も言わなかった。



「…手首、まだ痛い?」


『大丈夫だよ。
痛み止めも飲んでるし。』


だけど隠すように布団に忍ばせる左手を見ると、やっぱり悲しくなった。


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