粉雪2-sleeping beauty-
「…俺、これからまた行かなきゃいけないんだけど、夜には戻ってくるから。」


『…うん…。』


いつも肌の温もりを感じるように少しだけ頬に触れて帰る俺に、

千里は目を伏せるようにして何も言わなかった。


手を滑らせた瞬間、少しだけ千里の瞳が悲しそうに揺らぐ。


だけど俺は、振り払うようにして笑顔を残し、背を向ける。



『待って、マツ!!』


呼び止められ、ドアノブに手を掛けたまま、顔だけで振り返った。



『…煙草…買ってきて…?
ちゃんと…戻って来てくれるよね…?』


何かを押し殺し、千里は戸惑うように言った。


いつの間にか、昔と逆になってしまったみたいだった。


“今度”という約束で繋ぎとめていた明日や明後日は、

今は千里に繋ぎとめられているみたいに感じる。



「了解。
絶対ちゃんと届けに来るから。」


歯を見せて安心させるように笑い、持っていたドアノブを引いた。


すれ違う看護師は、

いつの間にか俺のことを“彼女想いの優しい彼氏”なんて噂してた。


だけど顔見知りになった新人の可愛い看護師にも俺は、目もくれることがなかった。




笑ってる千里が好きで…


だからその為なら、他の何も要らない。


すっげぇ愛してて、一緒に居るとあたたかい気持ちになれる。


隼人さんの大切にしていたものが、今はハッキリとわかるんだ。


多分俺は、あの人に近づいて行ってるんだと思う。


自分でも否定できないほどそれが分かるから、きっと千里はもっと不安なんだろう。


だけど俺は、あの人とは違うから…。


そのことを証明するために、俺は今、動いてるから…。


だからもうちょっとだけ、待っててくれよ…。


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