粉雪2-sleeping beauty-
『…お前、何でそこまでするんだよ?
一体何を背負ってんだよ?!』


声を上げた嵐は、俺を睨む。


『千里だってそうだよ!
愛してた男が死んで、辛いのはわかるよ?!
けど、普通はあそこまでならねぇだろ?!』



“普通って何?”って、千里なら言うだろう。


俺にだってそんなの、わかる訳ねぇよ…。



「…仕方ねぇよ…。
アイツは、あんな風にしか生きられないんだ…。」


『…お前はそれを、背負うつもりなのか?』


唇を噛み締め、嵐は聞いてきた。


俺は視線を落とし、振り払うようにして再び嵐に向けた。



「…アイツが望めば、そうするよ。
けど、そうじゃなかった時は…」


そこまで言い、口をつぐんだ。


「ここからは、お前らには関係ねぇ話だ。」


『―――ッ!』


瞬間、嵐によって胸ぐらを掴まれた。


ムカつく位に整った顔立ちが、悔しそうに歪んでいる。



『何が“関係ねぇ”だよ!
っざけんじゃねぇぞ!!
俺らがどれだけ心配してると思ってんだよ?!
何、一人で勝手に決めてんだよ?!
てめぇの悩み聞くのが、俺の役目なんじゃねぇのかよ!!』


捲くし立て嵐は、怒りを押し殺しながら、肩で息をしていた。


だけど、俺が揺らぐことはない。



「…落ち着けよ、嵐…。
悪ぃけど俺、微塵も悩んでねぇんだわ。」


『―――ッ!』


俺の言葉に、嵐は悔しそうに唇を噛み締め、掴んでいた手を離した。


俺はすっかり短くなってしまった煙草を消し、スーツの襟を正す。



『…意味わかんねぇ…。』


嵐の吐き出した言葉が、事務所を包む。


横目に見た嵐の拳は、少しだけ震えているようにも見えて、

それが俺の胸を締め付けた。


重苦しいほどの沈黙は、とても麗らかな朝の陽とは似つかわしくない。


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