粉雪2-sleeping beauty-
「…お別れだ。
今まで散々迷惑掛けたけど、お前らには感謝してるから。」


『ちょっと待てよ!!』


『そうだよ、何勝手なこと言ってんの?!』


笑顔を向けた俺に、3人は必死そうな顔で制止する。



「…真鍋…。
絶対、お前ならやれるから。
子供の顔見る前に、こんなことになって悪かったよ…。
元気な子が生まれるように、祈ってるから。」


真鍋は押し殺すように、唇を噛み締めた。



「…ルミ…。
お前は幸せになれ。
折角千里がくっつけてくれたんだから…。
千里の店は、お前の好きなようにしろよ。
多分、千里もそれで良いと思うから。」


涙を零すルミは、全てを理解してくれたように大きく頷いた。



『…ママは、幸せになれるんだよね?
マツさんと…生きるんだよね…?』


だけど俺は、その問い掛けに答えることが出来なかった。


だから振り払うように、嵐に顔を向ける。



「…嵐…。
お前のこと、最初はムカついてたけど、今は感謝してる。
お前には俺も千里も、すっげぇ助けられたから…。
自分の店持つのが夢なんだろ?
祝いに行ってやることは出来ないけど、テッペン目指せ。」


『…っざけんなよ…!
何格好良いこと言ってんだよ?!』


嵐の声は、震えていた。


だけどきっと、俺の声も同じくらい震えていたんだと思う。



「…グッドラック…」


嵐の胸に拳を押し当て、事務所を出た。


俯いたままの嵐は、肩を震わせていた。



すっかり昇ってしまった朝日に、だけど俺の視界はぼやける。


この街に来て、大切なものばかりが増えた。


捨てることに、何の迷いもなかったはずなのに…。


だけど俺は、千里の笑顔が見たいんだ…。



今まで、本当にありがとう―――…



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