粉雪2-sleeping beauty-
a wedding dress
『…今日、晴れてるね。』


店の駐車場に着き、車を降りた千里は背伸びをした。


そして俺に向き直り、不安そうに顔を見上げる。



「…見たくねぇだけだろ、あの人。」


『…そっか。
嫌われちゃったかな。』


ポツリと呟いた千里は、店の入り口に足を進めた。



「オイ、千里!
どーすんだよ?!
止めんなら、今だぞ?」


その背中に向かい、声を上げる。


足を止めた千里は再びこちらに笑顔を向け、口を開いた。



『…止めないよ。
だって、あの人を愛してあげられるのは、あたししか居ないんだもん。』


「―――ッ!」


『…だけどそんなあたしを愛してくれるのは、マツしか居ないよ?』


そしてこちらに歩み寄り、俺の手を取った。


“行こっ♪”と言って引っ張られる手にため息をつき、同じように足を進めた。



やっぱ俺は、トコトン甘いのかな。


こんな悲しいこと言われてんのに、ちょっと嬉しかったりするんだ。


俺は結局隼人さんにも、千里にすらも敵わない。



「…ムカつく女…。」


『何か言った?』


呟く俺を、千里は睨む。


だけどすかしたように鼻で笑い、通された個室に足を進めた。



“この辺のやつ、全部持ってきて!”


笑顔を向けた千里に、店員は目を丸くしていた。


その向かいに座る俺は、呆れ半分で。



『隼人のお金、全部使っちゃおうよ!!
どーせ、いらないんだから♪』


その顔はまるで、イタズラっ子のようだと思った。


“好きにしろよ”なんて言いながら、俺は煙草を咥える。


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