粉雪2-sleeping beauty-
ビデオ屋で適当なDVD借りて、ちょっと早めに晩飯の買出しに行って。


一緒に歩いて、一緒に選んで。


もしかしたら、一緒にショッピングモール歩いてた時より楽しかったのかもしれない。


千里は何故か、アンパンマンのチョコ買おうとするし。


すっげぇ呆れて、だけどめちゃくちゃ笑って。


さっきまで泣いてたのが嘘みたいだった。



俺達二人は、何かを築くことが出来たのだろうか。


何かを残すことが出来たのだろうか。


未だにそれはよくわかんねぇけど、俺の中にはちゃんと残ってるから。


だから、それだけで良いんだ。



酔っ払いみたいに笑いながら、部屋に戻った。


なのに部屋は静まり返り、その肌寒さに現実に引き戻されていくのがわかる。


机の上には、千里が置いていったアクセサリーが残され、何となく虚しくなった。


それを見て俯く千里に、言葉を掛ける。



「…俺の、外しとくか?」


だけど俺の言葉に、千里は首を横に振った。


そして俺の体に腕を回し、顔を上げる。



『…そんなこと言わないで?
マツに…愛されてたいよ…。』


「―――ッ!」


密着した場所から、千里の体温を感じた。


重なる心臓の音は少し早くて、だけど何故か安心した。


頬に触れ、落とした唇を千里は受け入れる。


ただそれだけのことが、愛しくて仕方がなかった。


込み上げてくる感情を必死で抑え、ゆっくりと唇を離す。


絡まる視線に自然と笑みが零れ、体を離して俺はソファーに身を預ける。



『…大丈夫だから、一緒に頑張ろう?』


その言葉を残し、千里はキッチンに消えた。


千里はいつも、“頑張れ”なんて言わない。


こんな時でも、“一緒に頑張ろう”って言ってくれるんだ。


だから俺は、心のもやが取り除かれてる気がするんだ。


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