粉雪2-sleeping beauty-
『…そんなに見てて、失敗したらどーすんの?』


「…良いんだよ、別に。
お前が俺の為に作ることに意味があるから。」


『―――ッ!』


一瞬目を見開いた千里は、再びクスッと笑い掛けた。



『…マツの為にご飯作ってるときだけは、ずっとマツのこと考えてたよ。
“マツの為にご飯作らなきゃ”って思ってたから、今まで毎日を生きてこれた。』


「―――ッ!」


『…でも変だよね。
あたしこれから死ぬのにさ。
自分の分も作ってるなんて。』


少し悲しげな笑顔は、俺の胸を締め付けた。



「…そんなこと…言うなよ…。」



明日から、こんな光景はなくなるんだ。


別れる為にこんなことをしているのに、なのに余計に別れられなくなる。


“行くなよ”って…


“今からでも遅くないだろ”って、言ってしまいそうになる。



「…すげぇ愛してんだよ、俺…。」


『…うん、知ってるよ。』



ただ何となく、言いたかった。


だけど吐き出すと、泣きそうになって…。


きびすを返して灰皿のある机に向かう。


すっげぇ愛しくて、だからすっげぇ苦しくて…。


横目に見たアクセサリーは、部屋の明かりに照らされていた。


だからこそ俺は、つや消し加工の指輪を選んだんだ。


俺のあげた指輪は、輝いてちゃダメなんだよ。



“もーすぐご飯出来るよ”


そう言いながら千里が口ずさむ鼻歌は、珍しくエアロスミスだった。


それを聴きながら、蘇ってくる千里との思い出を噛み締めた。


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