粉雪2-sleeping beauty-
『…我ながら、超美味しかった♪
お腹イッパイだよ~!』


煙草を咥えた千里は、大満足な様子だ。



『…やっぱ、マツと食べるのが一番美味しいよね。』


「―――ッ!」



“だったら―――…”


そう言いかけて、唇を噛み締めた。


そして代わりに、咥えていた煙草に火をつける。



『…どしたの?』


「…何でもねぇよ。
つーか、出掛けるから準備しろよ。」


『…うん。』



刻む時計の音より早い心臓の音が、体中に響いてる気がする。


嫌でも目にしてしまう時計を、だけど俺は外さなかった。


ちゃんと確認しなきゃ、奪い去ってしまいそうになる。



部屋中に響くカチャカチャという洗い物の音は、最後の晩餐の終わりを意味していた。


千里がキッチンに立つ最期の姿を、ただ目に焼き付けた。


純白のドレスにキッチンという場所は不似合いで、違和感ばかりを覚えた。



脆くてはかなくて、そして綺麗で…。


殺してしまうことが、あの人の女なのが勿体無いとさえ思える。


だけど俺は、あの人には勝てないから。



「…なぁ、千里…。
俺で…良いの…?」


『…何が?』


「最期の男。」


言葉を投げかける俺に、千里は笑顔を向けた。



『マツが良いし、マツ以外にはいないよ。
他の人じゃ、代わりにすらならない。』


「―――ッ!」



そんな言葉に、何故か分からないけどただ安心した。


少しでも“特別”だと思われてるなら、それ以上は望まない。



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