粉雪2-sleeping beauty-
―――冬になると、隼人さんが変わった。


毎日コソコソどこかに電話してるし、とにかく楽しそうだった。


飲みにも行かなくなって、俺が隼人さんの女共から怒られたりしたよ。



だけど、たまに何かを考え込んだりしてさ。



『…なぁ、マツ…。
欲しい物を手に入れたら、今度は手放したくなくなったんだ…。
…どーすりゃいいかな?』



俺的には、“ハァ?!”ってカンジだった。


“誰だよ、この人”ってカンジ?


こんなに悲しそうな顔なんて、見たことなかったんだ。



「…じゃあ、手放さなきゃ良いんじゃないんすか?」



こんな適当なことしか言えなかった。


欲しい物を手に入れたのに、何で嬉しそうな顔しないのか不思議で仕方なかったんだよ。



“女”が理由だってのは、何となくわかった。


その頃はハッキリ言って、“ダサッ!”ってのが本音。


俺の中の格好良い隼人さんの像が、その女の所為で壊れていったんだもんな。



あの人は、守るものが出来たから、弱くなった。


でも今は、格好良かったと思えるんだ。


俺も千里とこの街に来て、お前や従業員達に囲まれて、随分弱くなっちまった。


“こーゆーのも悪くない”って思えるようになったんだ。




「…俺は今のアンタより、昔の狂犬みてぇな方が好きでした。」



だけどその頃は、何もわかってなかったから、ある日言ってやったんだよ。


そしたら、何て言ったと思う?



『…お前は何もわかってねぇよ。
俺はあんな地獄みてぇな生活、死んでも戻りたいとは思わねぇ。』



女に囲まれて暮らす生活のどこが地獄なのか、ちっともわからなかった。


だけど今ならわかる。


毎日ただ、虚しいだけだったんだろうな。


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