皆川修司という男

しばらくして、修司は退院し、
達弘と暮らす事になった。


達弘は学校には通っていない。
両親は早くに亡くなり、今は知りあいの仕事の手伝いをしているらしい。


「ボロアパートだけど、我慢してくれよ」


そう言って達弘は修司の頭を撫でた。
早くに両親を亡くした者同士、仲良くやっていけると、達弘は思っていた。


とは言っても、
血の繫がった父親は達弘本人なのだが。



「いいか、修司。
世の中な、自分を助けてくれる相手なんて一握りだ。

他人は信用するな!
疑ってかかれ!!

それが人間の正しい生き方だ!」


達弘は修司の肩を掴み、力説した。



「わかった!
ボク、うたがってかかる!!」


三歳の修司には難しすぎたが、
修司はこの事を守ると決心した。


それが、少し違う方向にいってしまった事にはまだ気付かなかった…。




それから五年が経ち、
修司は小学生になった。


小さな頃から整った顔と変わった性格で、
学校では一目おかれていた。


「ねえねえ、修司くん、ともだちにならへん?」


にこやかに話してきたのが
のちの親友、森川慎二だった。


誰もが修司に近寄らないなか、
慎二だけ、興味しんしんに話しかけてきた。


修司は嬉しかった。
友達ができる事に。



でも……。


『疑ってかかれ!』


そんな父の言葉が頭をよぎる。
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