駆け抜けた少女【完】

「素晴らしい師匠だったのだね」

「はい、とても尊敬してます」


矢央と体術の話で盛り上がる山南と藤堂の後ろでは、真剣な表情で笑顔の矢央を見つめる永倉がいた。



だから、年の割に落ち着いてんのか。


まだあどけなさが残り、ぱっと見では子供。


だが丁寧な話し方や、礼儀作法にやたらうるさかったことなどから年の割にと思った。


けれど、たまに見せる仕草や表情はやはりまだ子供で、しっかりしているせいで心配にもなる。


無理をしなきゃいいが。


と、永倉は心の中で呟いた。



「そうだ! えっとさ、その腕が治ったら腕前披露してよ?」


チラッと細腕を見て、にわかに眉を下げた藤堂。

本当ならば、今その傷で痛みを感じていたのは自分なんだという顔だ。


それに気づいた矢央は、パッと左腕を上げた。


「それがこれ、もう治ったみたいなんです」


「「「え!?」」」


また、三人の声が揃った。


「さっきから腕を動かしても痛くないんですよね」

「ほ、本当に?」


恐る恐る矢央の腕に手を伸ばした藤堂。

矢央は思い切って、腕に巻かれていた晒をくるくると解いていく。

慌ててる藤堂を、かなり無視した行動だった。


全て取り終え傷口をみると、不思議な事に、


「やっぱり、治ってる」


きれいさっぱり刀傷は無くなっていた。


「うっそ〜?」

「まじかよ……?」

「これはいったい……?」


驚くのは無理はない。

昨夜おった傷が、たった半日で治るなんて人間業ではない。


「私、いつからこんな神業を極めたんですかねぇ?」


呑気なのは矢央一人である。


< 104 / 592 >

この作品をシェア

pagetop