駆け抜けた少女【完】

「私、単純だから…みんな信用してくれたんだって思ってた」

「全員が信用しとうかは誰にもわからん。 浪士組の中にも、間者がおるくらいや、いつ己が疑われて、いつ仲間を疑わなあかんなるかもわからん。
せやけど、少なくとも俺は局長副長を信じとる」


凛とした真っ直ぐな眼差し。

山崎の信じる気持ちに偽りはない。


「信用されんと思うてまうのは、まだお前が俺らに踏み込んできとらんから、そう思うんや」

「―――――え?」

「何処かで遠慮して、踏み込まんようにしとる。 本心を言わんと強がっとる、ちゃうか?」

優しく問い質す山崎。

矢央は、戸惑った。


本心……?


「他人の気持ちを知る能力なんかないんやぞ。 語らな、何も相手に伝わらん。 わかってほしいなら、わかってもらえるまでぶつからなあかんのとちゃうか?」

「……言っても…良いの?」


本当の気持ちを伝えたら、疎く思われやしないかと不安を顔に貼り付ける矢央。


だが、山崎を見上げた顔には期待が込められている。


本心をぶつけても、嫌いにならないかと。


「わからん」

「んなっ!?」


山崎は、あっさりと否定した。

驚く矢央にニヤリと笑みを向け、入り口に向かう。


扉を開けると、外はすっかり暗くなっており月明かりが山崎の艶のある笑みを照らしていた。

「言うたやろ。 伝えてみな、伝わらんと。 まずは、己で扉を開けてみぃ」


ぽかんと口を開けた間抜けな顔の矢央を一人残し、山崎は扉を閉める。


完全に閉まりきる間際だった。

「俺は、信じたるわ」




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