駆け抜けた少女【完】
その矢央の発言がいけなかったのか、土俵に上がっていた力士は四股を踏み始めた。
これは、相手をするという合図に取れた。
「女、怪我をしてもしらんぞ?」
華奢な女に勝負を挑まれる、それを力士は侮辱と受け取ってしまったのだ。
凄みのある睨みに、普通の女なら既に泣きが入っているに違いない。
しかし、矢央の笑みは消えることはなかった。
「あなたに責任とれなんて言いませんから安心してください」
グッグッと、拳を押し合う。
久しぶりの勝負に、武道の心得がある矢央のアドレナリンが発散された。
「あんのっ、バカが…」
「うわぁ、どうしよ! 左之さん、新八さん! さすがに、怪我だけじゃすまないでしょっ」
土方は額に手をやり、藤堂は原田や永倉に助けを求めた。
慌ててる者、呆れる者がいる中、先程力士と勝負した原田だけは違った対応をする。
褌姿のままあぐらをかいて座ると、顎をさすりながら頷いていた。
「否、案外良い勝負すっかもしんねぇぜ?」
「左之、お前無責任なこと…」
「ほれ、勝負が始まっちまったんだ。 男なら、うだうだ言ってねぇで見届けな」
原田が何故そんなに安心しきっているのかわからず、そわそわしながら始まってしまった勝負に目をやる面々。
じりじりと距離を縮める両者。
明らかに不利な体格差だった。
力士からすれば、矢央は赤子も同然だ。
勝てるはずもない勝負だが、本人は負ける気はない様子だった。
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