駆け抜けた少女【完】

――――ドサッ!


それは、本当に一瞬の出来事だった。


飛び込んで来た力士を交わすのかと思われたが、矢央は体当たりしてくる力士を真正面で迎え撃つ。


身を屈め足に力を込めると、勢い良く飛び込んで来た力士の腹にスルッと上体を潜り込ませ、

そのまま潰してやろうと更に体重をかけた時、矢央は天に伸びるように一気に上体を起こした。


すると力士自身の重さで、力士の体は矢央の背に押されたように宙に浮き、ドサッと土俵に転がされていた。



「……っ……さすがに、おもっ」


矢央は想像以上の重さに一瞬足を折りかけた。

そこを何とか踏ん張ることで耐え、背後で自分が負けたことを信じられないでいる力士を振り返りながら肩を揉んでいると。



「まじかよ、勝っちゃった…」


信じられないものを見たように藤堂は呟いた。



「す、素晴らしい! 矢央君、君は女子にしておくのは勿体無い!」


ポカーンと口を開けたままの力士側や土方達、その中で近藤は矢央の勝利に拍手を贈った。


そして、拍手を贈ったのは近藤だけではなく……


「芹沢さん」


肩を押さえたまま、矢央がニコッと笑みを浮かべ顔を向けたのは芹沢だった。

矢央に拍手を贈る姿は、不機嫌なものではない。


「さすが、わしが見込んだだけはある。 良いものを見せてもらったぞ」

「ありがとうございます!」


良かった。 これで少しは芹沢さんの機嫌もなおったかな。


剣が使えない矢央は剣では到底勝つことが出来ないが、武術と頭脳を使っての肉弾戦ならなんとかなると思ってとった行動は吉とでた。


女の自分が芹沢の驚くことをすれば、怒りなど吹っ飛んでいくんじゃないかと。



「わしは先に帰る。 間島、帰って来たら茶をいれてくれ」

「はい! 後で、お伺いします」


笑みを浮かべながら屯所へと帰路につく芹沢の背中を見送っていた。


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