駆け抜けた少女【完】


「きゃっ……!!」


横から突然腕を引かれた矢央は驚き声を上げかけたが、それを何者かの手によっておさえられた。



―――ドクン、ドクン。



その者は矢央を抱え、使われていない部屋に潜り込んだ。



――ギシッギシッギシッ…


土方の気配が遠ざかると、ようやく拘束を解かれた。


しかし矢央は、ガクガクと震える体を抑えられなくてその者の腕にすがりついたまま。


「ど…しよ…、芹沢さ…んがっ」

芹沢が殺される。

しかも、仲間にだと思うと、尚更恐ろしくて堪らない。


「聞かなかったことにしろ」

「……っ!?」


その声にも発言にも驚く矢央は、眼を見開き顔を上げた。


「いいか、お前は今の話は一切耳にしなかった。 わかったか」

矢央を部屋に引き込んだのは永倉だった。


永倉は厠に行くと行ったきり、なかなか戻って来ない矢央を気にして捜しに来たのだが、矢央を見つけるやその表情で状況を一瞬で判断した。


矢央は今日の宴会の本当の計画を知ってしまったのだと。


永倉の言葉に、矢央は弱々しく首を左右に振るう。


「…ダメ…ダメだ、よ。 芹沢さんに言わなきゃっ…」

「言ってどうなるっ!」

「ヒッ…!?」


声を荒げた永倉。


「いいか、これは前々から計画されていたことだ。 芹沢一派は消される。 それをお前が何をしたところで止められるっ?」

「……ど、うして? 永倉さんは、このままでいいんですかっ」

矢央の眼に涙が滲む。


どうして芹沢が殺される計画が立てられる必要があるのかわからないのだ。

現代で生きてきた矢央には、人を殺さなければならない理由が理解できない。

その前に、どんなことがあっても人を傷つけてはならないと生きてきたのだ。


だからこそ仲間が仲間を殺そうとしているのが信じられない。


「仕方ねぇんだ。 仕方ねぇんだよっ!」


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