駆け抜けた少女【完】




「先程は、すみませんでした」


上目使いに矢央を見上げて謝罪する沖田をチラッと伺う。


「私――……寝相が悪いんですかね?」

「?」


突然の質問の意図が掴めず、沖田は首を傾げた。


「私の髪って一応直毛なんですよ。 なのに、毎朝寝癖に悩まされるんです」





沖田達が矢央を見て笑ってしまったのは"寝癖"。

毛っ先がちょこっと跳ねるなんて可愛い寝癖なら良いが、矢央の場合クシャクシャになりボーンと盛り上がる。


湿気に負けないし、パーマを当てれば直ぐに取れてしまうほどにサラサラなのに、何故か寝癖だけは頑固者で洗わなければ直らないわけで、毎朝の悩みの種だったのだ。


それを笑われたのだから、乙女心的にショックを受けた。



「そうとは知らず本当にすみません」

「いや、ご丁寧に謝られると当たりどころが無くなっちゃうじゃないですか」

「えぇ? 私にだけ当たるんですかぁ?」


矢央に怒鳴られた沖田以外の三人は直ぐにその場から逃げ去っていて、後に残された(逃げ遅れた)のは沖田だけ。


「もういいです…」


子犬のようにうるうるした目を向けられてしまうと、やっぱり無理と意気消沈。


後で残りの三人に何かしてやると、密かに企んでいると。


「間島君、これで大丈夫かな?」



ずぶ濡れのまま縁側に座っていた矢央の頭に手拭いを乗せ、温厚そうな男が服を持ち現れた。




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