駆け抜けた少女【完】
「楠さんはっ、楠さんは裏切らなかったかもしれないっ! 話し合えば仲間に…」
「んなこたぁ関係ねぇんだっ!」
怒鳴られ、眼を見開いた。
「楠がこちらに傾きかけていたのも薄々気づいていたよ。 だけどな、だからって見過ごすわけにはいかねぇ。 示しがつかねぇ。 それに、情けをかけられたこいつには、どちらにも居場所をなくすはめになる」
「だったら、逃がせば良かったっ!」
「んなことしてみろよ、こいつは間違いなく新撰組からも、長州からも追われるはめになる。どちらにせよ、死ぬんだよ」
新撰組からも、長州からも追われることになった楠。
そこで矢央は分かった。
新撰組には局中法度というものがあり、入隊すれば一生それに縛られる。
楠が逃げれば、"局を脱するを許さず"に該当し追われ捕らえられれば切腹。
そして、運良く新撰組から逃れたとしても、きっと楠は長州にも帰れなくなるだろう。
「こいつは殺されると分かってて逃げなかった。 覚悟を決めてたんだろうよ」
「……殺されるための…覚悟ですか」
「ああ」
「わかんないよ……。 殺すための覚悟も、殺されるための覚悟も、死ぬ覚悟もっ…私には全然わかんないっ!!」
涙を溢れさせる矢央。
頭の中が黒く染まっていくようだった。
この時代は、こんなにも"死"を当たり前とするなんて。
「それは、わからねぇんじゃねぇ。 お前は、わかろうとしてねぇんだよ。 今の時世がどんなものか、お前は知ろうとしたか? 立ち向かおうとしたか?
なんべんも言うが、これが新撰組だ。 そして、この時代の生き方なんだよ」
原田は、泣き崩れる矢央に手を差し出しかけて止める。
そして、そのまま背を向けて屯所の中に戻って行った。
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