だから、君に
少しけばけばしさのあるピンクのドレスに、厚手のコートをひっかけている。
まだ二十代前半だろうか。僕ともそれほど離れていないように感じる。
暗闇のなかネオンに照らされた横顔は、遠目からも美しいことがわかった。
瞬間、女性の手が根岸の頬を強く打った。
打たれた格好のまま顔を背けた根岸を残し、彼女は店内に戻る。
ぼうっとしていた僕が慌てて歩みを進めたのと、根岸が僕に気がついたのはほとんど同時だった。
「……芹澤先生?」
「何やってんだお前、ていうか大丈夫かそれ」
「あ、はい大丈夫です」
「いや大丈夫じゃないよな、とりあえず冷やそう」
僕の登場に少し驚いた表情を浮かべた根岸の身体を抱えるようにして、僕は急いで通りを後にした。