だから、君に
案の定というか、麻生が去ったのを見計らい前田先生が顔を寄せてくる。

「先生、麻生さんと何かあったんですか」

「いえ、別に」

「ふぅん。でも麻生さんって意外と話すんですね」

口数が少ないイメージでした、と前田先生は少し笑って、今日何杯目かわからないコーヒーを取りに行った。

僕は机の上に広げたシラバスを眺めながら、深くため息をついた。

まさか勤務先で、由紀を知る人に出会うとは。

しかもそれが由紀の実妹で、僕のクラスの生徒で、生物部の部員。

「……教師、辞めようかな」

僕のつぶやきは、学年主任の挨拶で掻き消された。


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