だから、君に
由紀と僕の事実上の出会いは、この『被服室ダイビング事件』だったわけだが、公式な出会いはまた別にある。

小学五年生の春、僕の母は二度目の結婚をした。
歳の割にやや夢見がちであった母は、理想の男性という実在するかどうか怪しいものを追い求め、ひたすら男を換え続けた。

最初の結婚がなぜ上手くいかなかったのか、僕は知らなかった。

父の記憶がない僕には、二度目の結婚と言われても、あぁ僕は工藤大志から芹澤大志になるのか、程度の感慨しかない。

その日はやたらお洒落をした母に連れられ、僕はみなとみらいのホテルに入っている、これまたお洒落なレストランにやってきていた。


大志より二つ年上の女の子がいる、と母はうれしそうに言った。
今日から大志にはお姉さんができるのよ、と。

「聞いてないよ、そんな話」

相手の親子を待つ間、僕は母の言葉にむくれてみせた。

「だって言ってないもの、しょうがないじゃない」

母は僕の不機嫌もなんのその、手鏡でしきりに髪型を直し、ねぇ大志、母さん綺麗かな、などと何度も確認してくる。

「僕、お姉さんなんていらないんだけど」

ついでに言えば、父さんもたいして欲しくはなかった。

すると母は、手鏡をバッグにしまいながら僕の顔を覗き込んだ。


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