だから、君に
僕はふと、空を見上げた。

ここが池なら、僕にもどこか、跳びはねて辿り着ける場所があるのではないか。
手摺りを握っていた手をゆっくり離す。
大丈夫。飛べる気がする。
僕は大きく息を吸い込み、身体を前傾させた。

思いのほか大きな力が僕を地面に引き付けようとする。

すると僕の右腕は謎の力によって、重力とは反対の方向へ引き寄せられた。

足を不安定にぶらつかせながら顔を上げると、ベランダに座り込んだ小さな女の子が、僕の腕を掴んでいた。

「何してんの」

なかなかの重さがかかっているにも関わらず、彼女は無表情なまま言った。

「死にたいの?」

それが、僕と由紀の出会いだった。

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