だから、君に
「僕?」

「そうです、芹澤先生は先生なんだから、もっとこう、びしっとしてください」

女子高生にお説教されるというのはあまり気分のいいものではないけれど、それが由紀の妹だからなのか、僕は割とすんなり受け入れることができた。

それに、僕の教師としての在り方に問題があるのは、至極まっとうな指摘でもある。

麻生は僕が思っていたより、よく話す生徒だった。
それがわかったのは、ここ一か月でのことだ。

いつも無表情、無愛想。

そのイメージはあながち外れではなかったが、それでひとくくりにしただけの女の子ではない。

普通に話すし、普通に怒るし、普通に笑う。

年頃の女子高生だ。本当に、普通の。

その普通を得るということがどれだけ大変なことか、おそらく理解できないほどに。

「麻生は何で生物が好きなんだ?」

せっせと机を拭き出した麻生の背中に、僕はふと思いついて訊ねた。

「生物が好きなんて一言も言った覚えはありませんが」

「あ、そう」

「むしろ苦手です」

「え、うそまじで」

麻生は僕を振り返り、きつい目つきで睨んだ。

似ている。僕の頭は懲りもせずそう語りかける。

「その言葉づかい、なんとかならないんですか」

「……すみません」

まただ。

僕はまた、麻生の中に由紀を見る。


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