だから、君に

僕より少し背の高かった由紀の体を、僕はそっと抱き寄せた。

「大丈夫だよ」

僕の言葉が虚しく宙に浮かんでいるのを理解しながらも、ひたすら由紀の背中をさする。

「今度さ、海に行こう」

壁にかけられた高校の制服が見えないようにするのが、僕にできる精一杯の気遣いだった。

「海……?」

「由紀、海、好きでしょ」

「ん、ありがとう」

由紀は弱々しい声で、ごめんね、と付け加えた。

あのとき僕は、由紀に何をしてあげたらよかったのだろう。


「……麻生は、天ぷらで何が好き?」

ゆっくり麻生に近づくと、彼女は怪訝そうに僕を見上げた。

「天ぷら?」

「うん。僕はやっぱり、海老」

少し考えたあと、麻生は首を傾げながら答えた。

「蓮根ですけど……それが、何か」



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