だから、君に
花火大会が終わってすぐ、学校は始まった。
あの日見た大輪の花火の余韻もむなしく、受験生にとってはシビアな時期が訪れたのだ。
僕のクラスの生徒たちにも、夏休み前とは異なりぴりぴりした空気が漂い始めた。
「今月で、教科書の内容は終えるつもりだからな」
二時間目の生物、いつものように僕は教室を見渡しながら簡単に新学期のガイダンスをする。
まだ暑い日が続くなか、理科棟独特の湿っぽい雰囲気は、蒸し暑さを助長していた。
「10月からはセンター試験用のプリントをやってくから。時間配分の勉強にもなるし、授業中に解くように」
ぐるりと生徒一人一人を見ると、それぞれが思い思いに参考書を開いている。
いわゆる、『内職』というやつだ。生物を受験で必要としない生徒は、この時間に違う科目の勉強をする。
あまり好ましいことではない。しかし大学受験とは、そういうものなのだ。