だから、君に

その年僕が「ゆっくり」秋の気配を感じられたのは、由紀の存在によるところが多い。

夏の終わり、少なくとも僕はまだ夏だと思っていた、九月のある夕方だった。

ようやっと着慣れてきた学生服姿の僕と、学校指定の小豆色ジャージに身を包んだ由紀は、放課後よく二人で本屋に寄った。

由紀は僕と同じ中学に在籍しながらも、フリースクールのようなものに通っていて、そこは私服でも登校できるらしかったけれど、彼女はそのジャージを好んで身に纏った。

なんの変哲もない、むしろ今では(もちろん当時も)珍しいほど古典的な小豆色。はっきり言っておしゃれとは程遠かったけれど、由紀は気に入っているようだったから、僕も何も言わなかった。

「帰宅途中の寄り道ってさ、」

由紀は僕の少し前を歩き、棚に並んだ文庫本を丹念に調べながら、僕のほうを見ずに言った。


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