だから、君に

何かのうたで夏がくれば思い出すのは、遥かな尾瀬、だっただろうか。

僕の人生において、秋がくれば思い出すのは、中学に入学した年のこと。

中学に入学してすぐの頃は、今よりずっと背が低くて、今よりずっと僕の世界は狭かった。

それが秋を迎える頃には十センチ以上も伸びてしまうのだから、人間の体は本当に不思議だ。

僕には背が伸びたことよりも、由紀の目線と僕のそれが平行になったことのほうが、ずっとうれしく感じた。

その頃すでに僕たちは「家族」で「きょうだい」だったから、僕にもそれ以上の感情はなかった。少なくとも、そう信じていた。

あの年の秋は、なぜかゆっくりやってきた。
本来ならいつだって季節の変わり目は、突然僕らに襲い掛かる。
春の訪れを感じるだとか、小さい秋をみつけたとか。
そんな繊細な感性を残念ながら持ち合わせない僕にとっては、ベッドに潜り込んだときに擦り合わせた足先の冷たさが、ひんやりした秋の始まりだった。

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