運命
『ただいま!!』

私は元気よく挨拶をした。


『あら、どうしたの愛?』

お母さんが玄関まで出てきてくれた。


『どうしたのって、たまには家に帰ろうと思ってさ。お母さんの美味しい料理が恋しくなって(笑)』

私は、笑って見せたけどお母さんには無理しているのが分かっていた。


『お父さんが帰ってくる前に、化粧落としてきなさい。』

私は言われるがまま、洗面所に向かった。
そして鏡に映る自分の顔を見つめた。


『酷い顔‥』

水を全開に出し、洗面所で泣いた。誰にも聞こえないように、静かに‥







『ただいま』

今度はお父さんが帰ってきた。


『お帰りなさい。夕飯できていますよ。』


『ありがとう。あれ?愛、帰ってきているのか?』

お母さんは、脱ぎっぱなしになってきた愛の靴の向きを変えた。


『え、ええ。服を取りに戻ってきたみたい。今日はもう遅いから、こっちに泊まるって言ってましたよ』


『そうか‥』

お父さんが部屋に着替えに行っている間に、私も部屋に戻り部屋着に着替えて居間に下りてきた。


『お父さん、おかえりなさい』


『ただいま。』


『久しぶりに3人で食事ですね。もっと沢山つくっておけばよかった。』

お母さんが食卓に3人分の夕飯を並び終えた。


『あ‥あのね。ちょっと話があるんだけど‥』


『どうしたの?愛』


『私ね‥しばらくこっちに住むから。‥ほら、そろそろ料理のレシピも思い浮かばなくなってきたからお母さんに教えてもらわないと』

とっさに思いついたことを口走っていた。


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